国内試作量産、その裏側。
アサヒ電子様に聞いた「日本でつくる」現場の考え方
中国工場での検証や国内への工程移管を経て、国産充電器プロジェクトはいよいよアサヒ電子様での試作量産を迎えました。
CIOではこれまで、製品開発や設計変更、中国工場での検証など、プロジェクトが進んでいく過程を発信してきました。
その間、実際に国内での製造を担うアサヒ電子様では、どのような準備や調整が行われていたのでしょうか。
今回は試作量産当日、アサヒ電子株式会社 代表取締役社長の菅野様と、製造現場の責任者である佐藤様に、試作量産を迎えるまでの準備や工程づくり、現場で大切にされている「品質」について伺いました。

この記事の要点
Makuakeに寄せられた期待と、製造現場の思い
日本でつくることへの期待を、菅野様は嬉しさと緊張感をもって受け止めていると話されました。現場の方々も「身が引き締まる思い」で試作量産に向き合っています。
過去の経験が、現場の「当たり前」になる
静電気対策など、完成品からは見えにくい製造環境への配慮。アサヒ電子様では、過去の失敗から得た経験が現場に受け継がれ、ものづくりの文化として根付いています。
中国の工程をそのまま再現せず、日本の現場に合わせて設計
中国工場で確認した工程を、その目的や検査内容から捉え直し、生産技術と製造現場が協力しながら、日本での生産方法を組み立てています。
製品だけでなく、準備やスケジュールも「品質」
アサヒ電子様が大切にしているのは、製品の品質に加え、事前準備や変更への対応まで含めた「広い意味での品質」。CIOの全数エージングテストについても、特徴的な取り組みとしてお話しいただきました。
「日本でつくる価値」を、継続するものづくりへ
今回の協業には、日本のものづくりの可能性を広げたいという双方の思いがあります。アサヒ電子様が掲げる「NEW FACTORY宣言」とのつながりについても伺いました。
※本記事の対談内容はYouTube動画の発言内容をベースに、記事として読みやすく再構成したものです。実際の会話の空気感は、ぜひ動画本編でもご覧ください。
今回の対談
1.Makuakeに寄せられた期待を、どう受け止めたのか
Makuakeの公開後、国産充電器プロジェクトには、日本でつくることや品質への期待を込めた応援コメントが多く寄せられています。
今回、そのコメントをアサヒ電子様にもご覧いただき、試作量産を迎えた今、どのように感じているのかを伺いました。
今回Makuakeのコメントを見せていただいて、大変嬉しいなと思いました。それと同時に、これだけ多くの方、特に日本の皆さまが日本産というものに期待されていることをひしひしと感じて、大変緊張しながら取り組んでいます。
実際、現場で働く社員も、こうした嬉しい言葉に対して「身が引き締まる思いだ」と話しています。
皆さまのご期待に応えられるように、「これぞCIOが日本でつくっているものだ」と思っていただける製品を出していきたいと思っています。
2.現場で気づいた、細やかな品質への配慮
試作量産の現場を見学する中で、中橋が注目したのは、作業台や部材を準備する場所に設けられた静電気対策でした。
◆完成した製品からは見えない、製造環境への工夫
先ほど試作量産の現場で、一つひとつの工程を拝見したんですけども、ものすごく丁寧だと感じました。
例えば、作業台の静電気対策や、キッティングのところでも静電気を除去するイオンが流れていたりとか。
一つひとつ本当に細かい部分なんですけど、そういったところにものすごく配慮されているなと感じました。
そこに気づいていただけたのは嬉しい限りですね。
完成した製品ももちろん大切ですが、それをつくるための前準備や環境がすごく重要だと思っています。
実はこうした細かいところも、過去に失敗してきた経験から得たものなんです。
静電気は目に見えません。出荷の段階で検査をしたときには大丈夫でも、市場に出てから壊れてしまうことがあります。
こうした経験から得てきたものが、アサヒ電子の持っているものづくりのノウハウだと思っています。
◆過去の経験は、どのように現場へ受け継がれるのか
静電気対策のような工夫は、どのように次の世代へ受け継がれていくのでしょうか。
実は「暗黙知」とよく言われるものなんですけど、これを引き継ぐのはなかなか大変です。
以前は人から人への口伝えというのが正直なところでした。
でも、口伝えで「こういうことだよね」と伝わっていくと、それが企業文化になっていくと思うんです。
ああ、文化なんですね。
はい。例えば、先ほどの静電気対策も、アサヒ電子ではやって当たり前になっています。
誰かに言われなくても、みんなが自然に「そういうものだよね」と対策できるんです。
確かに。チェックシートで一個ずつ確認していくと、どうしても抜けが出てしまうこともありますよね。
でも文化になると、もうやって当たり前だから、むしろその環境が整っていないことには始まらない、という感じなんですね。
そうですね。何かを見たときに「あれ、おかしいよね」と気づけたり、棚をつくる人も、言われなくても必要な対策ができるようになっていく。
そういう状態になるといいのだと思っています。
3.試作量産に至るまでの道のりと、日本でつくる意味
ここまでCIOでは、製品の設計や検証、中国工場での取り組みを中心に発信してきました。
では、その製品を日本で生産するために、アサヒ電子様ではどのような準備や調整が行われていたのでしょうか。
◆完成した製品からは見えない、製造環境への工夫
お話をいただいてから、いろいろと準備を進めてきました。
大きなところでいうと、スケジュールを守りながら、いかに製品をつくるかというのは、どんな製品でも苦労するところです。
「こういうものをつくりたい」という総論では、みんな同じ方向を向けるんです。
ただ、各論になっていくと、少しずつ齟齬が出てきます。
お客様との間でも、社内でも、「こう思っていたんだけど、違うの?」ということが出てくるので、そこを一つずつ合わせながら進めていく必要があります。
そうですよね。
実際、いつ人を用意するのか、設備のためにいつ場所を空ける必要があるのかなど、いろいろな要素が絡んできます。
つくりたいという思いは同じでも、実際のタイミングが合わないとなかなか難しいですよね。
難しいですね。
特に今回は中国から日本への工程移管ですので、言葉も文化も違います。
「品質」や「ものづくり」といった言葉の定義も異なる中で、最後まで一つずつ確認していかないと、「こう思っていたのに違った」ということが起こります。 そういう国をまたいだコミュニケーションには、すごく苦労しています。
実際、CIOの企画や品質のメンバーと、アサヒ電子様の品質や生産管理の方々で話を進める中でも、具体的になればなるほど各論の話になってきました。
このタイミングでどうしてもつくりたい、というCIOの希望に対しても、かなりご調整いただいた部分があったと思っています。
いえいえ、これはCIO様に限らず、他のお客様でも同じなんです。
スケジュールどおりに、すべてがスムーズに進むことの方が少ないですね。
そうなんですね!
◆ スケジュールを合わせることも「品質」
そうなると、スケジュールの考え方はどうなんでしょうか。
リスクを考えて十分に余裕を持ちたい側と、できるだけ早くつくってほしい側とのすり合わせになるのでしょうか?
どの企業様にも大きなスケジュールがありますよね。
その中で、一つが遅れると、次の予定もずれてしまうことがあります。
最終的にものづくりを担うのは製造現場ですから、そこをいかに頑張って合わせていくかだと思っています。
逆に、それができることも、日本でつくる価値の一つだと思っています。
ですから「品質」というのも、製品が壊れないということに加えて、その前準備も含めて品質ですし、スケジュールを合わせることも品質だと思っています。
なるほど。
これまでCIOでは、製品単体の不良率など、使っていただくうえでの品質を中心に考えてきました。
でも、時間に間に合わせることや、そのために人員を調整してリカバリーすることも含めて、「広い意味での品質」と考えていらっしゃるんですね。
そう思っています。
まさにそういう意味では、改めてお礼をお伝えしたいんです。
今回、エージングの設備を当初予定していた場所に置いていただく予定だったんですが、CIO側のスケジュールがタイトになり、押してしまったこともあって、急きょ1階に場所を空けて設備を設置いただきました。
今回の試作量産が何とか間に合ったのも、こうしてご調整いただいたからこそだと思っています。
それも含めて、日本でつくる意味だと思っています。
そういうフレキシビリティも含めて評価いただけることが、日本でつくる意味の一つだと思っています。
4.中国の工程をそのまま移すのではなく、日本の現場に合った工程へ
ここからは、実際の生産現場で工程づくりを進めてきた、現場責任者の佐藤様にもお話を伺いました。
◆ 実際の製造現場では、何が行われていたのか
まず現場の目線でいうと、これまで中国工場で検証されてきた製品を、日本に持ってきてつくれる形にする、ということです。
場所も変われば、設備も変わる、人も変わります。
全く同じものづくりができるとは考えていなくて、一つずつ検証を重ねながら、工程の準備や工程設計をしてきたことが一番大変だったと思います。
◆ 工程設計は、どのように進めているのか
工程設計って、ちなみにどういうふうにされるんですか?
例えば、中国で行っている工程のうち、日本でできること、できないこと、追加した方がいいことを、どうやって決めていくのでしょうか。
工程設計は、生産技術という部署がメインで担当しています。
現場側も生産技術と一緒に入り、実際に顔を突き合わせながら、ST(標準時間)も頭に入れて工程を考えています。
※ST(標準時間):一つの作業を行うために設定する標準的な作業時間。
少し補足すると、中国でつくっているものをそのまま持ってくれば、コピペなので簡単なんです。
ただ、それでは我々がやっている意味がないと思っています。
今回は従業員が実際に中国工場へ行き、向こうの工程を見てきました。
事前にいただいた工程の資料と照らし合わせながら、数学でいうと「素因数分解」するように、一つずつ工程を見ていきます。
例えば検査なら、どんな検査をするのか、何を見ているのか。
それによって工程を一つにするのか、分けるのかを考えます。
どちらかというと、工程の「意味」を捉えている感じですね。
そうですね。
それを踏まえて、アサヒ電子の中で一日に何台つくるのか、工程をどのくらいの長さにするのか、作業台をどこで区切るのかをシミュレーションします。
ただ、紙の上ではこのやり方が良いと思っていても、現場には作りやすい方法があります。
例えば、右利きの方が多いことも踏まえ、物をどちらから取り、どちらへ流すと作業しやすいか、といったことも考えています。
本当に何も知らない人が、見よう見まねで同じようにつくったとしても、現場からすると、すごく作業しづらい工程になってしまうわけなんですね。
そういう場合もあります。
だからこそ、設計する人と実際に作業する人が、いかに協議しながら工程をつくれるか。
そこが、作りやすい工程をつくるための肝だと思っています。
5.アサヒ電子様が驚いた、CIOの全数エージングテスト
工程設計について伺ったところで、今回の国産充電器ならではの特徴についても聞いてみました。
◆ 他のメーカーの製品と比べて、特徴的だったことは?
今回の製品を実際に組み立てるイメージを考えたとき、他のメーカーさんの製品と比べて、少し特殊だったところはありますか?
初めて使う設備関係は、特徴的だったと思います。
あと、エージング棚ですね。ここ、実は結構我々としても驚いたところです。
なるほど。
日本のメーカーでも、エージングを全数で行うというのは、あるようで実は多くありません。
設計段階で品質を保証する「設計保証」という考え方を取るメーカーが多いんです。
だから、基本的には最後は抜き取り検査ですよね。
そうですね。そうした中で、CIO様は全数検査をされているというところに驚きました。
CIO様の製品の品質への考え方が、こういうところに表れているのだろうと思っていました。
◆ 全数検査と、工程ごとのトレーサビリティ
そういう意味では、アサヒ電子様でも一つひとつの工程でトレーサビリティを取られていますよね。
そこが掛け合わさることで、すごく相乗効果が生まれるんじゃないかと思っています。
そうですね。
アサヒ電子では、人間は必ずミスをするものだと思っています。
だから、そのミスを後からどうやって分かるようにするのか。
バーコードやトレーサビリティで追えるようにすることや、工程にチェックポイントを設けて、抜けがないようにすることが大切です。
現場からも「ここは抜ける可能性があるから、こういう仕組みをつくってほしい」と生産技術へ要望を出しながら進めています。
6.現場の声で、検査治具の形も変わる
工程での抜け漏れを防ぎ、実際に作業しやすくするための工夫は、使用する治具にも反映されています。
◆ TFT液晶の検査治具も、現場の意見から変更
それこそ、今回つくっていただいたTFT液晶の検査治具も、現場の声を取り入れてつくられたものなんですか?
まさにそうですね。
今の治具は液晶の面が右側にあって、操作ボタンが左側にあるんですけど、最初は逆だったんです。
現場としては逆の方が使いやすいので、生産技術と話をして、液晶を右、ボタンを左に変更していただきました。
ボタンと液晶の位置を変えたんですね。
そうです。最初はボタンが右側だったんです。
右利きの方が多いこともありますし、作業が終わったものをすぐ右側へ渡せるように考えています。
面白いですね。ありがとうございます。
7.アサヒ電子様が、ものづくりで最も大切にしていること
試作量産までの準備や、現場での工程づくりについてお話を伺ってきました。
そのうえで、今回の国産充電器の製造において、アサヒ電子様が最も大切にしている考えについても伺いました。
◆製品の品質だけでなく、準備やサービスも品質
ものをつくるとなると、皆さん「品質」と言われますよね。
でも、それは製品そのものの品質だけではなくて、準備も含めて、サービスも含めて品質だと思っています。
今回でいうと、CIO様が何を期待してアサヒ電子に依頼してくださったのか。
それを実現するために何をするのか、ということを一番大切にしています。
そしてもう一つ、日本でつくるということに対して、アサヒ電子自身が価値を見出し、価値を提供する。
それが日本の製造業全体にも広がればいいなと思っています。
◆「日本でつくる価値」を、これから積み重ねていく
アサヒ電子様にこの取り組みへ共感いただき、一緒に進めていただけることに意義があると思っています。
以前、菅野社長から「日本の製品というだけでは飯は食えない」というお話もいただきました。
やっぱり、その付加価値をきちんと形にして、選んでいただけるものにしていかないといけないと思っています。
正直、今回の第1弾の取り組みだけで、日本でつくる付加価値をすぐに実感していただけるかというと、難しい部分もあると思うんです。
でも、1年、2年、3年と時間が経ったときに、あのときCIOがこの選択をして、アサヒ電子様につくっていただいたことは間違っていなかった、と。
そして、購入してくださった方にも「この製品を選んでよかった」と思っていただけるようにしていきたいです。
そう言っていただけると嬉しいですね。
「継続は力なり」だと思っています。
信頼やブランドというのは、長く続けていくからこそ生まれると思っていますので、CIO様とも引き続き長く取り組んでいけたらと思っています。
8.なぜCIOの国産充電器プロジェクトを引き受けてくださったのか
アサヒ電子様は、なぜ今回の国産充電器プロジェクトに協力してくださったのでしょうか。
その背景には、日本のものづくりのこれからに対する思いがありました。
アサヒ電子では、少し前からベンチャー企業の支援を行っています。
根底にあるのは、日本のものづくりが衰退していくことへの心配です。
世界には新しいアイデアを持った企業がたくさんありますが、日本にも、そうした企業や新しい製品を生み出したい人はいると思っています。
そういう方々に対して、アサヒ電子がこれまで培ってきた製造ノウハウを提供していきたいんです。
今回CIO様とお話しする中でも、日本のものづくりに対する熱い思いを感じたので、一緒に取り組みたいと思いました。
アイデアはあるけれど、つくる場所がないという方がいれば、ぜひお話をさせていただきたいと思っています。
本当に、同じようにものづくりをされているメーカー様にも、ぜひこうした取り組みを知っていただきたいと思っています。
例えば、それが競合メーカー様であったとしても、日本国内でものづくりをする企業が増えていけば、一つの産業になる可能性もあると思うんです。
そうですね。パイが小さい中で取り合っていても仕方がありませんからね。
こうした取り組みが注目されることで需要が生まれ、その需要によって工場への製造依頼が増えていく。
そういう流れをつくっていかないといけないと思っています。
本当にその通りなんです。だからこそ、一緒に取り組ませていただいています。
9.「もの」をつくる工場から、「価値」をつくる工場へ
最後に、アサヒ電子様が掲げられている「NEW FACTORY宣言(未来をつくる工場)」と、今回のプロジェクトの繋がりについてお伺いしました。
◆「NEW FACTORY宣言」と、今回の国産充電器プロジェクト
アサヒ電子では「NEW FACTORY宣言」として、「未来をつくる工場」を掲げています。
工場というと、ものをつくる場所だと思いますよね。
でも、その「もの」を「価値」に置き換えて、「価値をつくる工場」にしていきたいと考えています。
今回のCIO様のプロジェクトも、製品をつくることに加えて、先ほどお話しした広い意味での品質も含めて、価値を生み出す取り組みにしていきたいと思っています。
そして、その価値はお客様だけでなく、地域の方々や、ここで働く社員などにも届けていきたいと考えています。
実際、今回Makuakeが始まってから、いろいろな方から連絡をいただいたんです。
あ、そうなんですか。
昔一緒に働いていた方から、「Makuakeを見たら菅野さんが映っていて驚いた」と連絡をいただいたり。
「応援購入したいんだけど、どれを選べばいいの?」という声をいただいたりもしました。
なるほど。めちゃくちゃ嬉しいですね。
アサヒ電子だけでは、なかなか届かなかったところにも、CIO様と一緒に取り組むことで発信できたと思っています。
NEW FACTORY宣言にも光を当てていただけたことを、とてもありがたく感じています。
やっぱり、こうしたつながりはものすごく大切だと感じています。
今回CIOが国産充電器プロジェクトに挑戦できているのも、菅野社長に共感いただき、アサヒ電子様に一緒に取り組んでいただいたからこそ、ここまでたどり着くことができました。
アサヒ電子も、ものづくりをしたいと思っていても、メーカー様から声をかけていただかなければ始まりません。
そういう意味では、Win-Winの関係だと思っています。
今回の対談では、試作量産を迎えるまでの調整や工程づくりに加え、アサヒ電子様が大切にされているものづくりへの考え方を伺うことができました。
中国工場で検証してきた製品を、日本の現場でどのようにつくっていくのか。今回の試作量産で得られた経験を、次の本格量産へとつなげていきます。
用語について